解説
 灰塚ダムは江の川洪水調整を主目的に、広島県北部山あいの三良坂町、吉舎町、総領町三町にまたがるエリアに建設される。訪れる急激な環境の変化を危惧して、三町は地元の住民たちと協働して、建設省に対する環境整備の提案を行ってきた。われわれも七年前より、そのスタッフとしてこのプロジェクトに参加している。多くの困難にもめげずプロジェクトを続行してきたのは、「これ以上の自然破壊と地域社会の崩壊は食い止めなければならない」という人々の強い意志である。  洪水調整用ダムの特徴として、ダムエリア410haの土地のうち、200ha以上は高水敷(通常は水に漬からない空き地)として残される。
 ひまわり舞台は、この高水敷の一部として灰塚ダムエリアの最南端、安田生活再建地と接する境界にある。もともとはダムエリアより移転してきた新しい墓地と住宅地そして保育園の間に残された空き地だった。視点を変えれば、この空き地は、相互の関連性もなく建てられたままになっていた、これらの新たな建築群を有機的に結びつけることのできる要に位置していたことにもなる。航空写真でも分かるように、この位置は安田の里から流れてきた上下川が、ほぼ直角に曲がって知和谷に向かうコーナーにあり、地形的にも、まさに要衝にあることになる(かって背後の山に山城も築かれていた由縁である)。
 ゆえに景観形成の要衝としての、この空き地の活用方法をめぐる、子供たちも参加したワークショップが、四年がかりで幾度も重ねられてきた。最終的に提案されることになったのは近自然工法による親水公園である。緩やかに蛇行する上下川沿いの谷間と山々の稜線を背景に、対岸から眺めたときに野外舞台としても機能するように工夫されている。
 正式にいえば、この工事は護岸整備であり、ここは公園ではない。治水事業では、河川区域というかたちで線引きし、コンクリートの護岸が直線的に水の流れを規定してしまうのが一般的であるが、その境界線をあえて崩し、敷地側に入江を引き込む大胆な案が作られた。敷地自体が谷に浮かぶ独立した舞台━━船となり、周囲の自然環境と人々の暮らしを結びつける(様々な感覚の)交感の場となるよう図られている。